{Interview}
SHINBIを究める
切り絵アーティスト
柴田 あゆみさん

「心動くもの」で生きていく

自分を見つめ直す旅のなかで「切り絵」に出会った、柴田あゆみさん。繊細で美しい作品を通して、想いを表現しています。

心震えた切り絵との出会い。

もともと切り絵作家になろうと思っていたわけではないのです。小さい頃からまわりに合わせるだけの生活に疑問を持つような子供で。その想いをぶつけたくて高校生から7年ほど、音楽活動を続けていました。でも、次第に自分の心が動くものではなく、まわりの人が喜ぶかどうかを大切にするようになっていて。
そんな頃、一時的に音楽ができなくなるほどの事故に遭ったんです。幸い怪我は回復しましたが、それを機にまっさらな自分になって揺らがない自分の心の芯を見つけるためにニューヨークへ渡りました。
3年くらいはやりたいことも見つからずに焦る日々でしたが、ある日、いつも過ごしていた教会の天井のステンドグラスから光がバーッと差し込んできて。その美しさに言葉にならないくらい心が震えたんです。これだ!と思い、紙とナイフを買って帰り、夢中になって紙でステンドグラスをつくりました。それを光に透かしたときの言いようのない高揚感は今でも忘れられません。それが私の切り絵との出会いで、原点となっています。

ステンドグラスのように、入り込む光が印象的な柴田さんの作品。

芯を確立できた
アートスクールでの出会い。

他のアートも学んでみようとアートスクールに通い、そこで出会った恩師が大きな存在になりました。人の心を動かす力のある方で、近くで人としてのあり方を学ぶことで、自分の作品が表現できるようになったと思います。また、とても自由な発想で、思考の枠を広げてくれる方で、私が「この小さな切り絵の世界に入りたい」といったら、「入れるくらいの作品をつくればいいじゃない」なんて。その言葉が今の立体的で巨大な切り絵作品につながっているんです。

からだがすっぽりと収まるほどのスケール感。

あと、アートスクールにはいろんな人種・信仰をもつ人がいるので、自分が何をどう思っているのかを伝えるために、ひたすら自分を見つめ直しました。そうやって自分の表現したい“芯”が研ぎ澄まされていきましたね。精神面でもすごく学ぶことが多かった時間でした。

光と影、立体感が織りなす、
ひとつの“命”。

人間だけでなくすべての生きものには時間があり命があることを作品で表現しています。私の作品は必ず光とともに展示しますが、陽と陰が出会って命が宿るこの世の道理と同じように、作品にも光と影によって命が吹き込まれると思うんです。

光と影が生まれることで完成する作品。

命からさらに生まれる命を表現。

ブック型の作品では 、煩悩の数と同じ108枚の紙一枚一枚に切り絵を施して、時間の層を表現しています。作品一冊で一つの命の始まりから終わりを表しているので、作品をつくることはたくさんの命を生み出すように感じていますね。

見えないところまで広がる細かい切り絵。

どの作品もシンプルなカッターナイフで作られています。

心を大切にし、その力を信じる。

「心」は人間が持っている素晴らしいもので、その力はとても大きいと思うんです。私自身、心の底から願ったことは不思議と実現してきました。初めてオペラ座を見た時、こんな大きな舞台で切り絵をつくりたい!と思ったら、舞台美術のお話をいただいたり。8メートルもの切り絵の層に照明があたった時には、教会での衝撃と同じくらい心が震えました。

森山良子さんコンサートツアーにて。
楽曲から浮かんだ、太陽のように包み込む温かさと
優しく力強いパワーをイメージ。

今挑戦したいのは、さまざまな植物が折り重なる太古の樹海のような作品。包み込まれることで生命の源を感じてもらえる作品をつくりたいです。自分の心と向き合って、これからも“命”ある作品をつくっていきたいですね。

〈PROFILE〉

原 裕子さん
切り絵アーティスト
柴田 あゆみさん

神奈川県横浜市出身。2007年にニューヨークに移り、国立アカデミーにて版画とマルチメディアを学び、その後パリで約2年間展示と制作を行う。光と立体感のある作風が特徴。2020年には集大成となる「切り絵柴田あゆみの世界~巡るいのちの“Roots”~」も開催。

https://www.ayumishibata.com/

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